Niantic社によるARとUXについての特別講義

東京校
ゲーム学部

バンタンゲームアカデミーでは、定期的にプロの現場で働く人たちをお招きして、特別講義を行っています。

今回は、『Ingress』や『Pokémon GO』、『Monster Hunter Now』などの制作を行うNiantic(ナイアンティック)社から白石淳二さんと石塚尚之さんを東京校にお招きして、ARとUXについて講義していただきました。大阪校メンバーと入学予定者の方もオンラインで参加していました。

■Niantic社とはどんな会社なのか?
まずはNiantic社にて、ARの普及や対外的なパートナーシップを担当されている白石さんからのお話から始まります。

Niantic社ではARを通じて「外に出て新しいものを発見してもらうこと」、そして「誰かと一緒に」ということが会社のミッションであり、ゲームの開発とともに、屋外で楽しむゲームとして世界中でイベントを行っています。


■AR=拡張現実の機能やツールを紹介
まずはARの機能や技術についての解説からはじまります。これは「ARで何ができるか」という話です。

それには以下のようなものがあります。
Real-Time Mapping:深度を読み取ることでリアルタイムに3Dのメッシュを作成
Semantic Segmentation:カメラの画像から空、地面、人等のオブジェクトを認識
Shared AR:同じAR空間を他の人と共有
VPS:街のモニュメントなどカメラを向けるだけで位置を推定、また仮想オブジェクトを配置

実際にARを使ったツールの例としては、他社のものも含めて映し出され、それはMeasuranimal(めじゃにまる)、Skatrix、GOFLといったものなどが紹介されました。

そしてARでの体験を作るうえで、皆さんにやってもらうならば、自社の『Peridot』という動物を育成するゲームを使って体験してもらうのがよいと話します。

「このようにいろんなツールはあるのですが、ゲームを作る上でいちばん大事なことはクリエイティブさ。ARの機能ありきで何かを考えてみるよりも、実際の体験ありきで考えたほうが良いゲームが作れると思います」と白石さんは語ります。

「そのなかで重要なことがUX(ユーザーエクスペリエンス)だと思うので」と話し、そこからは石塚さんにバトンタッチ。

■UXについて:ゲームとARのデザインとその可能性
冒頭で白石さんの話があったあと、次にはUXについて、石塚尚之さんのお話が始まります。テーマは「ゲームとARのデザインとその可能性」。

まずは石塚さんの自己紹介から。石塚さんは多摩美術大学を卒業したあと、いかにコンピューターが人の行動に影響を与えるのか、ということを学ぶために渡米。帰国後にはGoogle社にて検索や日本語入力、メインとしてGoogle Mapsの乗り換え検索を担当していたそうです。

Niantic社では『Pokémon GO』のデザインを担当。これまでレイドバトル、フレンド機能や、GOスナップショットなどにも携わったといいます。

■チームでどのように開発していくか
そしてゲームの開発現場の話へ。開発チームは全世界に散らばっており、毎日オンラインでコミュニケーションを取り進めていきます。

チームのメンバーの職種は大きく3つに分けられ、①プロダクトマネージャー(プロデューサー)・ゲームデザイン、②UX / ART、③エンジニアとなりますが、そのなかから②UX / ARTについて深彫りする形で説明がありました。

プレイヤーのことを調べどんなものが欲しいのかを考える、ストーリーテラーのような役割がUX、ゲームワールド、世界観やコンセプトを考えるアーティスト、ゲームとして実際に触れるように作るのがテックアーティストで、これら全員がUX/ARTチームのメンバーとなります。

■開発のステップの話
私たちの開発チームは、普段は世界各地とオンラインでコミュニケーションを取りながら進めていきます。

1.理解&定義づけ(メンバー全員でビジョンを共有)
2.デザイン&プロトタイプ
3.ビルド&ブラッシュアップ
4.検証・確認
5.ローンチ
という順で行われます。

そこからゲームを作ることはどういうことなのか、という話へと続いていきます。

■ゲームを作るということは?
「ゲームというものは、アプリとは異なり、必ずしもなくても不自由はしないものであって、既にある生活のルーティンの中に入っていけないと、ゲームを遊んでもらえません。そんなところにゲームづくりの難しさがある」と石塚さんは言います。

また『Pokémon GO』ではゲームを通して知り合った人からコミュニティができたりしますが、プレイヤーたちが自分たちで楽しい体験・思い出を作れるようにゲームづくりをしていくのだといいます。

プレイする人によって年代や家族構成、ライフスタイルはさまざまで、新たに機能を作る場合はどんな人を取り込みたいか、どう楽しんでもらえるかを考えているのだといいます。

■ARの開発について
ARの開発にあたっては「空間」という2Dにはない要素が加わるので、「体験」がより重要になるのだと石塚さんはいいます。

登場するポケモンたちが生き生きとその場で活動しているように見え、プレーヤーの人たちにもより楽しんでもらえるように、草を触ったらそこからポケモンが飛び出してきてポケモンたちと出会えるように工夫したそうです。

またGOスナップショットにおいては、ポケモンたちにカメラを近づけすぎると実際のカメラと同じようにぼやけるようにすることで、実際にその場に生き物たちがいるように表現したのだといいます。

■ARの課題と今後・ARグラスについて
現在のARは様々な制約があるため一時的にしか使用されないものですが、今後技術的なブレイクスルーが起これば、より使われるようになるのではないか、と話します。

そして最後にARグラスについてのお話。AR=拡張現実、VR=仮想現実ですが、使用するツールとしてARは外で付けていても違和感のない眼鏡、VRはゴーグルのイメージです。
ARでは実際の道にオブジェを配置し、現実世界に映し出しますが、VRは現実を遮断し非現実世界に没入する形です。

Niantic社では、ARにより力を入れているそうです。
ARは室内外いつでもどこでも使えるスマートフォンに近いもので、VRは室内でより精細且つ迫力があるものを体験するテレビのようなもの。どちらも普及するなかで、ARのほうがより身近に使われていくのではないか、と推測します。

今でもイヤホンで雰囲気を盛り上げる音楽を聴きつつ街の風景を見ながら歩いたり、カフェではキャラクターやアイドルのアクリルスタンドを置いて一緒に写真を撮るなど、ARに近い体験が行われています。

VRであれば室内でゴーグルを使って非現実世界に没入しますが、ARグラスであれば、場所を選ばずに使えるように小型化していくなどの進化で普及していくはずだと石塚さんは話します。

■質疑応答
そして最後に質疑応答が行われました。「良い質問ですね」と言われていたものをひとつだけピックアップしてみると…。

Q.「ARグラスが外の空間で使われるようになったときに、なかなかできないモーションがありますが、そのような中で入力方法はどうなると思いますか?」

A.「明確な答えはないですが、何らかの小さなアクションでも判定してくれるものが求められるだろう、と見ています。あまり大きなモーションではなく、恥ずかしくない程度のものかもしれないですね。Apple Watchの指同士をタッチするジェスチャーなど、新しいインタラクションに注視しています。」

これから普及していくであろうAR=拡張現実、その開発のうえで大切な要素であるUXについて、おもに『Pokémon GO』の開発を例に講義していただきました。

参加した生徒達は、開発者としてユーザー体験の重要性を考える機会になったと前向きな声が多数あがる機会となりました。
貴重な講演をありがとうございました。

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